piano-treeの日記

https://www.facebook.com/Daisuke.Inoue.jp

マイルス・デイビスに学ぶビジネスイノベーター5箇条

世にクリエイターは数多かれど、マイルス・デイビスほどクリエイティブな人は空前絶後です。スウィングジャズの全盛にはパーカーやガレスピーらとビバップの創設に携わり、その後クールジャズ、ハードバップ、モードジャズ、フュージョンと新しい音楽の「ジャンル」自体を次々と生み出し、あるいは創設に深く関わりました。一つのジャンルの中で新しい音楽を生み出し続けた人、パンクからブルーアイドソウル、といった具合に既存のジャンルを渡り歩いてスタイルを変遷させた人や、新しいジャンルを一つ生み出した人は少なくありません。しかし、一人のミュージシャンが新しいジャンルを次々と創造する、というのはマイルスにしか見ることのできないクリエイティビティです。

そして、マイルスが創造したのは音楽だけではありません。ジョン・コルトレーンはじめ、ソニー・ロリンズウェザー・リポートの創始者ウェイン・ショーターハービー・ハンコックビル・エヴァンスキース・ジャレットマーカス・ミラー。ジャズファンのみならずとも名前は知っているであろう彼らは、全員マイルスバンドの卒業生達です。ギル・エバンスやプリンスなどとの対等な立場でのコラボレーション、彼の音楽にインスパイアされた、という間接的な影響までを含めたら、人材育成の観点から音楽の発展にどれだけ寄与したか、という視点でマイルスと肩を並べる人はいないでしょう。

さて、この尋常ならざる創造性は一体どこから来るのでしょうか。音楽に向き合う姿勢や態度といった点で、彼が秀でて他のミュージシャンと異なる特徴を分析していくと、その秘密が見えてきます。そしてそれは、広告・マーケティングやインターネット界隈に生息しているとたまに出くわす、類稀なるビジネスイノベーターたちの特徴と符合します。結論を急げば、マイルスに特に顕著な特徴、矜持というような意識的なものでは恐らくなく、ほとんど本能的な性向に近い特徴は以下の5つです。

1. 新しいことに興味を持ち続ける
2. 自尊心に創造の邪魔をさせない
3. 偶然の力を知って信じる
4. チーム全体に自分の自我を投影する
5. 自主性を重んじる

以下、1から詳しく。

1. 新しいことに興味を持ち続ける
私も高校生や大学生の頃は、常に新しい音楽を貪るように聞いていましたが、40歳近くになった最近はあまり新しいものに興味がもてなくなりました。しかしマイルスは、晩年ヒップホップに傾倒するに至るまで、新しいジャズはもちろん、クラシックや現代音楽、ロック、ソウル、ファンクと様々な音楽に興味を変遷させて来ました。ポップスもしかり。マイケル・ジャクソンシンディー・ローパーがスターになると、コンサートに足を運び真剣に、敬意をもってレコードを聴きこみます。例えばジョン・マクラフリンジミ・ヘンドリックス風のギターを響かせるエレキトリック期初期の音楽は、このような飽くなき新しい音楽への興味から生まれます。

2.自尊心に創造の邪魔をさせない
テナーサックスのジョン・コルトレーンは今やマイルスとも並び称されるジャズの巨人ですが、マイルスが発掘し周囲の反対を押し切ってバンドに入れた無名の新人でした。やがてマイルスの「カインド・オブ・ブルー」などで知名度をあげて独立し、フリージャズというジャンルを確立しますが、マイルスはこの、いわば「元部下が始めた新しいビジネス」にも深い興味と敬意を示します。ロック全盛期には、当時のロックスターの前座になることも厭わず、ロックの殿堂であるフィルモア・イーストでのライブを楽しみます。ロックを愛好する白人の観客が、ジャズとロックを融合させた自分の音楽をどう受け止めるかに興味があったためです。

3.偶然の力を知って信じる
おそらくこれがもっとも重要なポイントです。マイルスは、偉大なクリエイションは偶然が生み出すことを理解していました。現在では教科書で覚える体系だった音楽理論であるモードイディオムですら、ギル・エバンスとの歓談やセッションの中から自然と生み出されました。それゆえ、マイルスはライブやレコーディングにおいてインプロビゼーションを重んじます。事前の打ち合わせやリハーサルは一切なし。演奏直前に簡単なリズム譜を渡し、そこだけ事前に作っておいた数小節のテーマを吹き始めると、あとはメンバー同士のアドリブが織りなすケミストリーに任せる、というスタイルを好みます。メンバー選びも独創的で、信頼できるミュージシャンの推薦であれば、オーディションはおろか演奏も聞かないままレコーディングやライブに参加させたことも一度や二度ではありません。まさに、偶然の力を知り、それを信じていたのです。

4. チーム全体に自分の自我を投影する
マイルスのレコードの中には、マイルスのトランペットが入っていない曲が含まれているものもあります。それは極端な例ですが、マイルスは常にグループ全体のサウンドをこそ自分自身のサウンドと考え、自分のパートやソロが悪くても全体がよければそれをOKテイクとしました。派手な服に身を包み、フェラーリを乗り回す自我の強い彼ですが、演奏ではその自我を出さず、というよりはその自我をグループ全体に投影させ、いわばグループ全体を自分自身と考えて演奏しました。そこから、「クールの誕生」や「カインド・オブ・ブルー」におけるあの類稀なるグループサウンドが生まれたのです。

5. 自主性を重んじる
ジャズの帝王として、独善的なイメージがあるマイルスですが、ライブやレコーディングでメンバーに細かい指示をすることはありませんでした。3.のポイントとも大いに関連しますが、あのリリカルなトランペットの音色からも想像される実は繊細な感性が、メンバーたちの自我を敏感に感じ取っていたから、なのかもしれません。そしてこれはもちろん、彼のグループがジャズ史に燦然と輝く卒業生たちを輩出したことと無関係ではありません。メンバーは自主性の中で成長し、グループの演奏をより一層の高みに運んで、やがて卒業していくのです。


すでにお気付きかと思いますが、これら5つのポイントはそれぞれ密接に関連しています。全てが有機的に結合し、マイルスというクリエイターの人格、「クリエイター人格」のようなものを形作っているのです。そしてそれは、前段でも述べたように、ビジネスにおける偉大なリーダー・イノベーターの資質ととても似通っています。マイルスにとっては、これらは恐らく天性のものだったと思いますが、こうしてその特徴を体系化し理解することで、我々もそこから学び鍛錬通じてそれを体得することはできないでしょうか?まずはお前がやってみろ?そうですね!